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* * * * * 色とともに生きる共感覚者から * * * * *

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その言葉は誰のものか

小さい頃、ヨーロッパの西のオランダという国に住んでいたことがある。
5歳になるちょっと前のある日からその土地で私は4年半の歳月を過ごしていたことになる。
あれほどまでに刺激的だったことをどうして忘れ得ようか。二十歳を過ぎてからよりも鮮やかだ。
そう、それ以後に記憶が無くなったことはあるのに言葉も色もちゃんと覚えているのさ。

初めて向こうの幼稚園に行った時のこと、未だに笑えるような話が残っている。
"Wat is jouw naam?"(君の名前は?)と園児に聞かれたらしいのだが、私は当然何もわからない。
母に「あなたのお名前を聞いているわよ」と言われたので彼等に「773」と日本語で答える。
返って来たのは"O, 773, wat een mooie naam he! 773, mooi he, mooi he!"という宇宙語。
即座に私は泣き出した。褐色のレンガと三原色のペンキが塗られた世界が涙で歪んだ。

その男の子が言っていたこと、日本では一度たりとも聞いたことのない最上の褒め言葉。
「へぇ、773って言うんだ、何てきれいなお名前なの!773、いいね、素敵だね!」と。
だのに、その言語をまったく解さなかった私は「美しい・きれい・素敵」を意味する"mooi"の発音を
日本語の「もういい」と勘違いしていたのだった。今だからこそ、可愛いわねぇ、で済ませられるが、
私は「773はもう来なくていいって言ってる!お母さん、お家へ帰ろうよ、帰ろうよ」と咽び泣き、
必死に抵抗したのだそうな。わかる気もする。何せこれが社会への第一歩だったのだから。

実は、この頃の記憶に日本語はもう残っていない。不思議なことなのだが。
日本語との別れ、本当は思い出すだけで涙が出るほどつらい。なぜ別れにゃならんの?!
覚えた記憶さえ曖昧な日本語の方を身体は強く求めているというのに皮肉ね。
幸い、それ以後の私は猛烈なスピードでオランダ語を覚えることが出来たが、
この時期に共感覚をどれだけ活用していたのか今となっては正確にはわからない。だが、
友だちと遊んだ記憶よりも、色のモヤモヤした蒸気が自分を取り巻く景色だけはよく覚えている。

鮮やか過ぎる西洋言語の共感覚、なぜ君たちはそんなにも騒ぐのか。静まれ、静まれ!
日本語の淡い色の世界からすればオランダ語の共感覚は途轍もない威力を放つのだから。
そんなもんで、あの土地に行けばすぐに言葉は頭に舞い込んで来る。待ってましたとばかりに。
いったい自分の頭はどこで生まれて、何を故郷と思っているのだろうかと勘繰りたくなるのは
確かな気持ちであり、シーソーのど真ん中で右に行こうか左に行こうか今日も迷う。

言葉に色が見えるから余計にその存在が強調されているのだろうか?とはいっても、
それは私の世界でしかない。共感覚がないのは私が生きられなかった世界なのだろうから。
自分にしかないオランダ語の色の組み合わせがあるということ、何だか妙なものだ。
母国語ではないのに、母国語以上にそれを所有している意識が喩えようもなく強くなる。
「オランダ語を話せばオランダ人」と学校の先生は行ったのだけれども、やはり違う。
満月を決してみることのない世界、そんな切なさの詰まった籠の中にいつの間にかいたのね。

ある時、オランダに帰ってみた。昔と変わらぬ青い空、強い風、いっこうに定まらぬ天気。
住んでいた頃によく家族と歩いた公園に入ってみると、犬と散歩をする人が前からやって来る。
"Hoi!"(やあ!)と声を掛けられたのでこちらも"Hoi!"と返す。見知らぬ人に挨拶するのは、
この国じゃ当たり前。電車でたまたま前に座ったおばあさんともお天気の悪さを愚痴るのさ。
私が遠い異国の地から来たとも知らずに、なぜにそんなに気さくなの?本当に本当なの?

共感覚としての私にとってのオランダ語は、明るくて、色鮮やかで、何でもありの世界。
日本語は慎ましやかで、しっとりしていて、柔らかな感じ。これはあくまでの主観なのだけれど。
そこに住む人間はそれまた多種多様。すべては未知の世界だもの。文化は別次元の賜物だ。
共感覚と社会集団を同じヴェクトルへ結び付けること、私には到底出来そうにない。
これほどまでに留まるところを知らぬ脳の個性がなして共有し得ようか。個には打ち勝てぬ。


Waarom wilt U niet?
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  1. 2008/04/26(土) 01:13:35|
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178773

Author:178773
ある共感覚者のひとりごと。

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